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横浜地方裁判所 昭和62年(行ウ)5号 判決

原告

成川満

同

成川久子

右両名訴訟代理人弁護士

田中榮治郎

右訴訟復代理人弁護士

江上千惠子

被告

保土ケ谷税務署長

廣瀬威

右指定代理人

武田みどり

外六名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

一被告が昭和六〇年二月二七日付けでした原告成川満の昭和五八年分所得税の更正のうち分離課税の長期譲渡所得金額を三一二二万六〇六八円とした部分全部、納付すべき税額四万〇六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

二被告が昭和六〇年二月二七日付けでした原告成川久子の昭和五八年分所得税の二次更正のうち分離課税の長期譲渡所得金額二二二万六〇六八円、納付すべき税額三八万五二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告らが、別紙物件目録一記載の土地及び同目録二記載の家屋(以下「本件家屋」といい、両者をあわせて「本件譲渡資産」という。)の譲渡は租税特別措置法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三五条一項、三六条の二第一項所定の居住用財産の譲渡に該当すると主張して、更正及び賦課決定処分の取り消しを求めた事件である。

一本件課税処分の経緯

原告らの確定申告及び更正の請求並びに被告の本件課税処分等は、別表一及び二のとおり行われた(争いがない。)。

二本件課税処分の根拠に関する被告の主張

1  原告成川満(以下「原告満」という。)について

(一) 総所得金額 三八六万一二六〇円

原告満の確定申告にかかる利子所得の金額二二万九二一五円と給与所得の金額三六三万二〇四五円との合計額である(争いがない。)。

(二) 分離課税の長期譲渡所得金額 三一二二万六〇六八円

譲渡収入金額から必要経費と特別控除額を差し引いたものであり、各項目は以下のとおり算定した。

[譲渡収入金額]原告らと成川近衛(以下「近衛」という。)がその共有(原告らの持分はいずれも六分の一、近衛のそれは六分の四)にかかる本件譲渡資産を東邦生命保険相互会社(以下「東邦生命」という。)に譲渡した際の譲渡代金二億〇九八四万八八五〇円の六分の一に相当する三四九七万四八〇八円とした(争いがない。)。

[必要経費]昭和六三年法律第四号による改正前の租税特別措置法三一条の四第一項本文に基づき、前記譲渡収入金額に一〇〇分の五を乗じて算出した取得費一七四万八七四〇円と右譲渡に際して原告らと近衛が支払った不動産売買仲介手数料の六分の一に相当する一〇〇万円の合計二七四万八七四〇円とした。

[特別控除額]措置法三一条三項の規定により、一〇〇万円とした。

(三) その他

所得控除額、課税総所得金額、課税総所得金額に対する算出税額及び源泉徴収額は、別表一のとおりである(争いがない。)。

2  原告成川久子(以下「原告久子」という。)について

(一) 分離課税の長期譲渡所得金額 三一二二万六〇六八円

算出方法は、原告満と同様である。

(二) 所得控除額 三〇万円(争いがない。)。

三原告らの措置法三五条一項及び三六条の二第一項適用の主張

1  原告満は、昭和五八年分所得税について、本件譲渡資産の譲渡に伴う譲渡所得につき、措置法三五条一項(居住用財産の譲渡所得の特別控除)の規定を適用して確定申告をしたが、同人は、昭和五七年分所得税の確定申告において同条の適用を受けたので、措置法三六条の二第一項(居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例)の規定の適用を受けるべく更正の請求をした。

2  原告久子は、昭和五八年分所得税について、本件譲渡資産の譲渡に伴う譲渡所得につき、措置法三五条一項の規定を適用して確定申告をした。

3  原告らは、原告満の父近衛夫婦との同居を条件に本件譲渡資産の持分を贈与する旨、近衛から申し入れを受けて、永住する意思で本件家屋に入居し、本件譲渡資産を生活の本拠としていたもので、当初これを売却する意思はなかった。したがって、本件譲渡資産は、原告らにとって、措置法三五条一項及び三六条の二第一項に規定する住居用財産である。

四争点

本件譲渡資産の譲渡が居住用財産の譲渡にあたるか否かが争点である。

第三争点に対する判断

一措置法三五条一項、同三六条の二第一項の居住用財産とは、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠としていた財産をいい、これにあたるかどうかは、家屋への入居目的、住居期間等の諸事情を総合的に判断して決すべきであり、譲渡所得に対する課税上右各規定による特別控除ないしは特例の適用を受けることを主たる目的とする居住や居住の用に供する家屋の新築期間中の仮住まいのための居住など、一時的な目的で短期間臨時に居住する家屋などは、居住用財産にあたらないというべきである。

そして、右各規定は、住宅政策等の観点から所定の場合に租税を減免する例外的な特例規定であり、また、居住の意思をもって生活の本拠として財産を利用していた事実は、現に当該財産に居住していた原告らの支配領域に属する事柄であるといえるから、本件譲渡資産が居住用財産にあたることについては原告らが主張立証すべきである。

二本件譲渡資産譲渡の経緯等は以下のとおりであり、この点については争いがない。

1  本件譲渡資産は、もと近衛の単独所有であったが、近衛は、息子夫婦である原告らに対しそれぞれ六分の一の持分、妻成川きぬ(以下「きぬ」という。)に対し三分の一の持分を贈与し、昭和五六年一〇月一四日その旨の持分移転登記を経たが、後にきぬに対する贈与を取り消し、本件譲渡資産を譲渡した当時は、原告ら各六分の一、近衛六分の四の共有となっていた。

2  原告ら及び近衛は、昭和五七年七月九日、本件譲渡資産を東邦生命に、代金二億一〇〇〇万円(実測による精算後、二億〇九八四万八八五〇円となった。)で売却し(以下「本件売買」といい、この契約を「本件売買契約」という。)、同日、東邦生命は、手付金等として一億二六〇〇万円を支払った。

三本件売買前後における原告ら及び近衛の住居の変遷等は以下のとおりであり、この点についても争いがない。

1  原告らは、昭和四五年一〇月二〇日ころから、原告満所有の横浜市緑区三保町二一七九番地二所在の宮根団地一号棟一三六号室に居住していたが、昭和五七年三月二九日ころ、本件家屋に移転入居した。その後原告らは、同年五月二九日、宮根団地内の右居宅を売却し、同年一二月一五日、相模鉄道株式会社(以下「相模鉄道」という。)から横浜市旭区柏町二六番地一三所在の建売住宅(以下「柏町の建売住宅」という。)を購入し、翌五八年三月二七日ころ、本件家屋から右建売住宅に移転した。

2  近衛は、昭和三九年三月二九日ころから、妻きぬと共に本件家屋に居住していたが、昭和五七年四月八日、相模鉄道から横浜市旭区柏町二六番二九の土地(以下「柏町の土地」という。)を代金七八〇〇万円で買い受け、同年六月、柏町の土地上に建物(以下「柏町の建物」といい、あわせて「柏町の不動産」という。)を完成させ、同月二七日ころ、これに移転した。

四1  本件譲渡資産の東邦生命への引渡期日は、当初昭和五七年一一月三〇日とされていたが、その後原告ら及び近衛が、子供の学校等の都合を理由としてこれを昭和五八年四月一一日まで延期してほしい旨の「御願い書」(<乙一五>)を提出し、その延期を申し出たので、引渡期日は同日まで延期された(争いがない。)。その結果、原告らは、本件家屋に約一年間居住することになったものである。

しかし、引渡期日の延期にあたって原告らから提出された「御願い書」(<証拠>)は、すべて近衛によって書かれたものであり(<証拠>)、原告満はこれを見ていない(<証拠>)。また、原告らの長男成川晃は、原告らが昭和五八年三月二八日に本件家屋から柏町の建売住宅に転居した後も転校することなく、指定地区外通学許可の制度により、万騎が原小学校に通学している(<証拠>)。さらに、本件売買契約が締結された昭和五七年七月九日において、子供の転校等の問題は十分予期できたはずである。

したがって、本件譲渡資産の引渡期日延期は、単に子供の学校等の都合でなされたとは考えられないところ、本件売買を仲介した三菱信託銀行の社員として本件売買に関与していた富澤勗(以下「富澤」という。)は、本件譲渡資産の引き渡しが延期されたのは、近衛が「一一月末に引き渡したのでは、入居した年と譲渡した年が同じ年になってしまい、居住用財産の三〇〇〇万円控除が受けられなくなってしまう。」と言い出したためであり、また、富澤が近衛に対し、仮登記がされているから引渡期日を延ばしても税務署にわかってしまうと助言したことがある旨、東京国税局直税国税訟務官室大蔵事務官龍崎博之に対して述べている(<証拠>)。

2  昭和五六年当時協和銀行万騎が原支店長であった長田亘弘(以下「長田」という。)が同年一〇月二日ころ近衛の住宅(本件譲渡資産)を訪問した時、近衛は、長田に対し、本件譲渡資産の売却につき税務対策として、きぬ及び原告満にその一部を贈与し、原告満の家族を入居させ、同家族を一年位住まわせた上で昭和五八年ころに売却すれば、居住用財産の特別控除三〇〇〇万円が受けられる旨話した(<証拠>)。

また、本件売買の交渉にあたった東邦生命社員冨田和男は、富澤から、本件譲渡資産には登記上近衛の息子夫婦である満、久子の名前が入っているが、これは節税対策のためであって、実際上は近衛一人のものであるという話を聞いているほか、本件譲渡資産の購入にあたり、富澤や近衛から節税の話が頻繁に出ていたことも明らかである(<証拠>)。

3  近衛は、昭和五六年八月ころから、新たな土地へ移転する計画を立てており、昭和五七年四月八日に柏町の土地を買い受け、同年六月、柏町の建物を完成させたが、柏町の建物の建築工事は、相模鉄道が請け負い、相鉄建設株式会社(以下「相鉄建設」という。)が下請けし、さらに相鉄建設が積水ハウス株式会社に外注したものであるところ、積水ハウス株式会社は、昭和五六年八月二四日柏町の建物の建築工事設計図の作成を終え、同年一〇月二六日に一回目の、昭和五七年一月三一日に二回目の設計変更を経て、同年二月二六日近衛の代理人として建築確認を受け、同年三月二〇日には新家屋の建築工事設計図を最終決定した。相模鉄道は、同年二月一八日、近衛に対し、柏町の建物の請負工事代金の見積書を交付し、同月二三日、相模鉄道と近衛は、柏町の土地の売買に関し、横浜市長に土地売買等届出書を提出した(国土利用計画法二三条一項)(以上の事実は争いがない。)。これによると、原告らが本件家屋に入居した昭和五七年三月二九日ころまでには、柏町の建物の建築工事設計図は最終決定に至り、柏町の土地売買に関する国土利用計画法上の届出書も提出されており、原告らが本件家屋へ入居して約一〇日後の同年四月八日には、柏町の土地の売買契約が締結されているのであって、原告らが本件家屋に入居した時には、近衛の柏町の不動産への移転は決定的になっていたと認められる。

五前記二及び三の事実によれば、原告らが近衛夫婦と本件家屋において同居した期間は、約三か月にすぎず、また、原告らが本件家屋に入居してから三か月余り経過した後には、既に本件売買契約が締結されており、原告らは、約一年間本件家屋に居住しただけで、他に転居しているのであるから、これらの事実に照らせば、近衛夫婦との同居を条件に本件譲渡資産の持分を贈与され、永住の意思で本件家屋に転居した旨の原告らの主張は、極めて不自然というほかなく、これに前記四において確定した事実をも斟酌して考えると、近衛が本件譲渡資産の持分を原告らに贈与し、原告らが本件家屋に転居したのは、本件譲渡資産の売買につき原告らの関係でも居住用財産の特別控除を受けるための行為であった疑いが濃いといわざるをえない。そして、これらの疑念を払拭し、原告らが相当の期間居住する意味で本件家屋に入居し、本件譲渡資産を生活の本拠としていたことを認めるに足りる証拠はないから、本件譲渡資産は、原告らの関係で居住用財産ということはできない。

第四本件課税処分の根拠等

一本件課税処分の根拠について

被告主張の本件課税処分の根拠中、分離課税の長期譲渡所得金額以外の部分は、当事者間に争いがない。

そして、本件売買代金が二億〇九八四万八八五〇円であることは、当事者間に争いがないから、原告らの譲渡収入金額はそれぞれ三四九七万四八〇八円となる。

必要経費のうち、取得費は、昭和六三年法律第四号による改正前の租税特別措置法三一条の四第一項本文により、一七四万八七四〇円となり、譲渡費用は、本件売買仲介手数料六〇〇万円(<証拠>)のそれぞれ六分の一にあたる一〇〇万円となる。また、特別控除額は、措置法三一条三項により一〇〇万円となる。

二本件更正処分の適法性について

1  原告満

原告満の昭和五八年分の総所得金額は三八六万一二六〇円、分離課税の長期譲渡所得金額は三一二二万六〇六八円であり、国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項の規定による端数処理後の課税標準及び税額は、本件更正処分と同額になるから、本件更正処分は適法である。

2  原告久子

原告久子の昭和五八年分の分離課税の長期譲渡所得金額は三一二二万六〇六八円であり、通則法一一八条一項の規定による端数処理後の課税標準及び税額は、本件更正処分と同額になるから、本件更正処分は適法である。

三本件過少申告加算税賦課決定の適法性について

1  原告満

被告は、昭和六二年法律第九六号による改正前の通則法六五条一項に基づき、原告満が本件更正によって納付すべきこととなる税額五六四万円(昭和五九年法律第五号による改正後の通則法一一八条三項の規定により、一万円未満の端数切り捨て。以下同じ。)に一〇〇分の五の割合を乗じて過少申告加算税二八万二〇〇〇円を算出し、これを賦課決定したものであるから、本件過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

2  原告久子

被告は、昭和六二年法律第九六号による改正前の通則法六五条一項に基づき、原告久子が本件更正によって納付すべきこととなる税額五八〇万円に一〇〇分の五の割合を乗じて過少申告加算税二九万円を算出し、これを賦課決定したものであるから、本件過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

四なお、原告満は、本件更正処分の取消請求において、確定申告額未満の部分についても、更正の請求で主張した額(分離課税の長期譲渡所得金額については〇円、納付すべき税額については四万〇六〇〇円)まで取り消すよう請求しているので、かかる訴えの適否について検討する。

課税処分の経緯等については、別表一記載のとおりであって、原告満が昭和五九年三月一五日確定申告をし、同年八月二三日更正の請求をしたところ、被告が昭和六〇年二月二七日、更正すべき理由がない旨の通知処分をすると共に、増額更正をした。これに対して、原告満は、増額更正処分についてのみ、更正の請求額を超える部分を取り消すよう異議申立及び審査請求をして、本訴に至った。

かかる場合に、更正すべき理由がない旨の通知処分と増額更正処分とが如何なる関係に立つとみるべきかについては、従来種々議論の存するところではあるが、裁判所が訴訟事件につき判断する場面においては、いわゆる吸収説によるのが妥当と考えられる。けれども、行政不服申立手続においては、これと異なり、通則法九〇条及び一〇四条等の趣旨から、両者はそれぞれ別個に不服申立ての対象になるものと解せざるをえない。したがって、増額更正処分についてのみ不服を申し立て、通知処分について不服を申し立てなければ、後者については不可争の状態になり、増額更正処分についても、確定申告額未満の部分についてまで取り消しを請求することは、原則として不可能になるとみるべきである。

しかしながら、本件においては、増額更正処分についてのみ異議申立及び審査請求がなされ、通知処分については不服が申し立てられていないのではあるが、両処分は同日になされ、かつ、増額更正処分に対する不服において、確定申告額未満の部分についても、更正の請求額まで取り消すよう請求しているのであるから、実質的には通知処分についても不服が申し立てられているとみることに、さほどの困難はなく、手続の形式面のみに拘泥することは妥当でない。むしろ、かかる場合には、形式の上では通知処分について不服申立がなされていないが、例外的に、通知処分について不服申立がなされているのと同視して、増額更正処分の取消請求訴訟において、確定申告額未満の部分についても、更正の請求額までは取り消しを請求することが許されるものと解するのが相当である。

別表一原告成川満に係る本件課税処分等の経緯

(単位 円)

番号

区分

確定

申告

更正の

請求

左に対する処分

更正及び

賦課決定

異議

申立

異議

決定

審査

請求

審査

裁決

年月日

59.3.15

59.8.23

60.2.27

60.2.27

60.4.3

60.7.3

60.8.2

61.12.19

項目

①

総所得金額

3,861,260

3,861,260

更正すべき理由がない旨の通知

3,861,260

更正の請求額に同じ

棄却

更正の請求額に同じ

棄却

②

分離課税の長期譲渡所得金額

2,986,489

0

31,226,068

③

所得控除額

1,397,915

1,397,915

1,397,915

④

課税総所得金額(①-③)

2,463,000

2,463,000

2,463,000

⑤

課税長期譲渡所得金額(②)

2,986,000

0

31,226,000

⑥

④に対する算出税額

323,340

323,340

323,340

⑦

⑤に対する算出税額

597,200

0

6,245,200

⑧

算出税額計(⑥+⑦)

920,540

323,340

6,568,540

⑨

源泉徴収税額

282,643

282,643

282,643

⑩

納付すべき税額(⑧-⑨)

637,800

40,600

6,285,800

⑪

過少申告加算税額

―

―

282,000

(裁判長裁判官佐久間重吉 裁判官辻次郎 裁判官伊藤敏孝)

別紙物件目録<省略>

別表二原告成川久子に係る本件課税処分等の経緯<省略>

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